
今回ご紹介するのは、ご依頼いただいた「セルロースアセテート製ヘアコーム」への箔押し試し押し事例です。ご依頼内容は、コームの表面にアルファベットのイニシャルを箔押しで入れられるかどうかの検証でした。
アセテートは、べっ甲風の柄が美しく、メガネのフレームやヘアアクセサリーなどによく使われる素材です。ただし、アセテートは熱で軟化しやすい熱可塑性樹脂のため、焼印や箔押しのような「熱」を使う加工では、温度管理をどれだけ丁寧に行えるかが仕上がりを大きく左右します。今回の試し押しでは、まさにこの「温度」が結果を分ける最大のポイントとなりました。
素材への加工のポイント
今回お預かりしたのは、べっ甲柄が美しいアセテート製のヘアコームです。表面はつるっとした光沢のある仕上げで、くし歯の部分は細く繊細な形状になっています。

アセテートは紙や革のような「加工しても変形しにくい素材」とは異なり、熱可塑性樹脂特有のクセがあります。具体的には、
・ある温度を超えると表面が柔らかくなり、押した部分が溶けたように変形してしまう
・逆に温度が低すぎると、箔がうまく定着しない
という、いわば"ちょうどいい温度"を見極める必要がある素材です。今回のように箔押し加工を検討される場合は、実際に試し押しをして温度を確認することが非常に重要になります。
作業台の工夫
もう一つのポイントが「作業台」です。今回のコームは平らな板状の素材ではなく、アーチ状に反った形状で、さらにくし歯の部分は凹凸があります。ホットスタンプでまっすぐに圧をかけるためには、素材を安定して支える工夫が必要でした。
そこで今回は、ホットスタンプの作業台に柔らかいゴムマットを敷き、その上にコームを置いて加工を行いました。柔らかいマットを使うことで、コームのカーブや厚みの違いを吸収し、押した際の圧力が素材全体に均一にかかるようにしています。

硬い作業台にそのまま置いてしまうと、コームのカーブしている部分だけに圧力が集中してしまい、箔のムラや素材の破損につながる可能性があります。袋状の素材やカーブのある素材に箔押しをする際は、こうした緩衝材を挟んだ作業台の調整が仕上がりの綺麗さを左右するポイントになります。
加工の詳細
加工①:設定温度140℃/ナイロン・ビニール系用ゴールド箔
使用機材: ホットスタンプ 真鍮文字(イニシャル)
加工温度: 140℃ 使用箔: ナイロン・ビニール系用 ゴールド箔

まず1回目の検証として、ナイロン・ビニール系素材用のゴールド箔を使い、設定温度140℃で箔押しを行いました。
加工結果:
箔自体はしっかりと素材に付着し、文字も視認できる仕上がりにはなりました。しかし、アセテートが140℃の熱によって変形してしまい、箔の付き方が歪になってしまう結果となりました。軽く押し付けただけでも型が入ってしまうほど、素材が溶けやすい状態でした。


加工のポイント・注意点:
アセテートは、思っていたよりも低い温度で軟化が始まる素材だということが、この検証で分かりました。ナイロン・ビニール用の箔は本来110〜140℃程度で使用することが多い箔ですが、アセテートに対してはこの温度帯だと素材への負荷が大きすぎるようです。
文字の輪郭をシャープに出したい箔押し加工では、素材が変形しない温度帯を見つけることが何よりも重要になります。
加工②:設定温度120℃/革・紙用ゴールド箔
使用機材: ホットスタンプ 真鍮文字(イニシャル)
加工温度: 120℃ 使用箔: 革・紙用 ゴールド箔

1回目の結果を踏まえ、温度を20℃下げて120℃に設定し、あわせて箔の種類も革・紙用のゴールド箔に変更して2回目の検証を行いました。
加工結果:
120℃まで温度を下げたことで、アセテートの変形を大幅に抑えることができました。その結果、箔が非常に綺麗に定着し、文字の輪郭もはっきりとした仕上がりになりました。押し加減についても、1回目より少し強めに押し付けても素材への負担が少なく、むしろしっかりと箔を定着させることができました。

加工のポイント・注意点:
今回の試し押しでは、設定温度を140℃から120℃に下げ、箔の種類をナイロン・ビニール用から革・紙用に変更したことで、仕上がりが劇的に改善しました。
アセテートのような熱に弱い素材の場合、箔の種類ごとに推奨されている温度帯をそのまま適用するのではなく、素材の耐熱性に合わせて温度を下げて調整することが綺麗な仕上がりへの近道になります。また、温度を下げたことで押し加減にも少し余裕が生まれ、強めにしっかり押し付けても綺麗に箔が乗るようになった点も、今回の検証で分かった大切なポイントです。
まとめ
今回のアセテート製ヘアコームへの箔押し試し押しでは、以下のことが分かりました。
・アセテートは熱可塑性樹脂のため、設定温度によって仕上がりが大きく変わる
・140℃では素材が変形し、箔の輪郭が歪んでしまう
・120℃・革・紙用箔への変更により、綺麗な箔押しが可能に
・カーブのある素材には、柔らかいマットなどを挟んで作業台を調整することが重要
このように、同じ「箔押し」という加工方法でも、素材の種類によって最適な温度や箔の組み合わせは大きく異なります。特にアセテートのような熱に弱いプラスチック系素材は、少しの温度差で仕上がりが変わってしまうため、実際に試してみないと分からないことがほとんどです。
焼印本舗では、こうした素材ごとの見極めを丁寧に行うため、無料の試し押しサービスをご用意しています。「この素材に箔押しや焼印、型押しはできるの?」という疑問をお持ちの方は、ご購入前にぜひお気軽にお試しください。

























